化学的調査における基本要素 ガイド

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§V 塩類(NH4・PO4・NO2)

 これまでの章でも「有機物」という言葉を使ってきましたが、本項ではあらためて詳細に解説します。

 有機物に厳密な定義はありませんが、一般的に生体を構成する物質、つまり複数の炭素がベースになっている物質という認識で大丈夫です。その炭素骨格に対して酸素、水素、窒素、リン、あたりが修飾することによって生物のパーツとして多彩な能力を発揮できるわけですね。

 ここで水中にある有機物について考えてみますと、その発生源としては生き物の死体や排泄物が主になります。繰り返しになりますが生体を構成する主な元素は、C、O、HそしてN、P、Sです。その中でも水質に与える影響が大きいとされる、N、P(ともに13族元素)について、その水中における容態(安定な塩、その電離したイオン、そして生物学的には生体が有機物を分解して排出した物質)の濃度を調べることによって水質を評価することができます。

NH4+ アンモニウムイオン

化学式 NH4+
標準和名 アンモニウムイオン、アンモニウム塩
標準英名 Ammonium Ion、 Ammonium
定義  mg NH4+/L(=ppm) (アンモニウム態窒素)mg NH4+ - N/L(=ppm)

 ※ppm(parts per million)はあまり見慣れない単位ですので補足します。parts per millionの言葉の意味通り、100万分の一を表します。 100分の一を表す%(パーセント)の親戚だと思ってください。
求め方は、河川水は1ml=1mgと近似できるので、1L=1kgと考えて、mg/L = mg/kg = 10-3/103 = ppm と考えます。
便宜上 単位と呼んでいますが、正しくは比率を表す補助単位で、正式な国際単位であるm(メートル)やg(グラム)とは少し異なります。

 NH3をアンモニアと呼び、生物が生命活動を営んで輩出する窒素の多くは代謝の末にこの形をとります。強烈な刺激臭を持ち、しかも有毒です。アンモニア分子は極性を持つため、同じ極性溶媒の水に対して非常に良く融解します。このときに、そのほとんどが水分子と反応してイオン化するため、アンモニア分子が水中に多量に存在することは通常ありません。アンモニアはイオン化すれば毒性が和らぎますので、水中にアンモニアが排出されてもイオンになりきれないほど大量でなければその毒性で生物がダメージを受けることはありません。

 NH3 + H2O⇔OH- + NH4+

 イオン化したアンモニウム、NH4+をアンモニウムイオンと呼びます。アンモニアは極性分子ですので水に良く溶けるため、イオンよりで電離平衡状態(化学式の右方向と左方向に表された反応の速度がつりあっている状態。この場合は左向きの矢印の方が右向きの矢印よりも強いと考えればいい)を保ち、通常は分子のまま遊離するのは少量となるはずです。
 ですが、pH値が高い、つまりOH-が水中に既にたくさん存在していると、上式右側方向への反応が強くなり相対的に多くのアンモニア分子が遊離します。さらに水温が高い場合も水への溶解度が下がり、多くのアンモニア分子が水中に現れます。アンモニウムイオンよりもアンモニア分子の方が有毒ですので、当然水中の生物へのダメージは増え、水質は悪化したと評価されます。

 窒素は水中で主に3つの形を取ります。亜硝酸イオンを構成する亜硝酸態窒素(NO)、硝酸イオン(NO)を構成する硝酸態窒素、そしてアンモニウムイオン(NH4+)を構成するアンモニウム態窒素です。これらは無機態窒素とも呼ばれ、生き物の死体や糞尿などに含まれていた有機態窒素が微生物や細菌などによって代謝され分解されたものです。

 これら無機態窒素をさらに分解するのが硝化生物と呼ばれるある種の細菌達です。アンモニウムイオンから亜硝酸イオンを作り出す亜硝酸菌や、亜硝酸イオンから硝酸イオンを作り出す硝酸菌が有名です。彼らの働きにより水中の窒素の多くが NH4+ → NO2- → NO3- の順番に硝酸態窒素まで酸化され、藻類や植物に吸収されると再びその身体を作る材料となるのです。(硝酸態窒素以外が利用できないわけではないけど効率が落ちてしまう)

 亜硝酸菌の働き
 2NH + 3O → 2NO + 2HO + 2H + 化学エネルギー
 硝酸菌の働き
 2NO + O2 → 2NO + 化学エネルギー

 紹介した化学式の後ろにある化学エネルギーは硝化生物たちの生活に使われます。彼らは水中のアンモニアは水質に悪いから取り除いてあげようと考えているのではなく、そうすることでエネルギーが得られて生きていけるから分解しているだけなんです。これは我々人間が生きるために酸素を取り込んで二酸化炭素にすることでエネルギーを取り出している(いわゆる呼吸)のと同じぐらい、彼らにとっては当たり前のことなんです。
 そんな様々な生物が個々に行った営みの積み重ねが、自然という巨大なシステムを作り上げたというのは、すごく興味深く尊いことだとだと思いませんか?

※窒素循環のくだりはだいぶごまかしてます!この説明は生物基礎以下レベルなので、大学の二次試験でこんな適当なこと書いたら大減点されますのでご注意を(汗)

/* 文化祭に来てくれた小学生が読めるようにしたいんだけど、どこまで注釈すればいいんか分からん! ブルーバックスぐらいには砕いたつもりなんだけど…… */
概説  アンモニウムイオン、またはアンモニウム塩は弱毒ですので、そのものが水質に与える影響は僅かです。ですがこれらが水中多く存在するということは、電離平衡を考えれば強毒性のアンモニアもまた高濃度であるということです。そしてこの平衡は水温やpHの変化によってたやすくアンモニア分子の遊離に傾きます。つまりアンモニウム態窒素はいつ有毒物質に変化するか分からないということになり、これが多く水中にあるのはいずれ水質悪化につながるリスクであると評価されます。

 しかし本来であれば、アンモニウム態窒素は前述した硝化生物の働きにより他の無機態窒素に代謝されていくはずです。なのにアンモニウム態窒素が増加している場合は、硝化生物が分解できるよりも多くの窒素元が水中にあるということになります。(硝化生物が足りないというのは稀)
 水中で窒素が増える要因としては、動物の死体がなど極大の有機体窒素がある、動物の糞尿や家庭ゴミなど有機物に汚染されて時間がたっていない、などが考えれれます。他にも水温が低かったり溶存酸素量が少なかったりする場合は、硝化生物以外の微生物や最近の働きが鈍くなることにより分解された窒素の再吸収が行われなくなることもありえます。当然これらはいずれも水質の悪化を示しています。

 工場排水や生活排水の過度な流入が水質に大きな影響を与えるのはイメージできますが、動物の死体や糞尿など自然の営みが水質悪化に関係しているというのはぴんとこないかもしれません。
 生物の身体は窒素を含む大量の有機物でできていると最初に紹介しましたが、これは そもそも生物そのものが特大の窒素元であるということです。そんな窒素の塊は生きているだけで大量の窒素をばら撒いています。
 例えば生物が尿として窒素を排出する時、我々人間を含む哺乳類や成体両生類や軟骨魚は尿素、鳥類や爬虫類は尿酸を用います。アンモニアとして捨てるのは硬骨魚だけです。アンモニアは猛毒ですので他の安全な物質に変換しておくわけですね。(魚がアンモニアのままなのは、彼らは水中に生活しているのですぐにアンモニアイオンになって無毒化してしまえるからです)
 尿酸は水に溶けにくいので問題ないのですが、尿酸は分解によってアンモニアに変化しやすいので、哺乳類(人間以外にもイヌやネコも)の屎尿は水質汚染に強い影響があるため注意が必要です。
 よって周囲に工場や住宅など人間による汚染源がないのにアンモニア態窒素の数値が高い場合は、何らかの生物(たいていは 哺乳類)の水場となっていて定期的な糞尿による汚染があると考えられます。

アンモニウムの濃度
0.05ppm河川の上流の水 湧水
0.1〜0.4ppm雨水
0.5〜5ppm河川の下流の水
5ppm以上下水 汚水
測定法  アンモニウム態窒素の測定法には、インドフェノール青比色(吸光光度)法、中和滴定法、イオンクロマトグラフ法などがあり、生研が利用しているパックテスト(共立理化学研究所の商標、以下は略します)はインドフェノール比色法が用いられています。

 以下ではインドフェノール青比色法について補足します。

 インドフェノール法はアルカリ条件下でアンモニアが次亜塩素酸塩と反応しモノクロラミン(モノ-クロロ-アミン)を生成し、さらにモノクロラミンとフェノールが反応することで生ずるインドフェノールの発色を測定することにより、アンモニア態窒素を定量する方法です。
 しかしフェノールは劇物であるため排出規制もあり用いるのは現実的でなく、サリチル酸ナトリウムで代用することが多いです。その場合は下のような反応になります。

  NH3+ +ClO- → NH2Cl(モノクロラミン) + OH-
  モノクロラミン +二個のサリチル酸ナトリウム → インドフェノール + イロイロ(省略)

 パックテスト類の中でも発色が乱れやすく、なかなか難しい測定です。発色表にないような緑色になって慌てることがありますが、河川観測でしたらたいていは亜硝酸イオンが原因です。
 発色が悪いときは試料の温度が低すぎる可能性が大です。パックテストそのものをポケットに入れて暖めておくと冬場でも色がいい気がします。(説明書によると試料の温度は20〜30度ぐらいが好ましいそうです)
 容器内の試薬が溶けにくいですが多めに入っているので少々残っても気にせず大丈夫です。

 詳細は「共立理化学研究所様のWEBサイト」でご確認ください。


NO2- 亜硝酸イオン

化学式 NO2-
標準和名 亜硝酸イオン、亜硝酸塩
標準英名 Nitrite Ion、 Nitrite
定義 mgNO2-/l(ppm) mgNO2- -N/l(ppm)

 ※ppm(parts per million)はあまり見慣れない単位ですので補足します。parts per millionの言葉の意味通り、100万分の一を表します。 100分の一を表す%(パーセント)の親戚だと思ってください。
求め方は、河川水は1ml=1mgと近似できるので、1L=1kgと考えて、mg/L = mg/kg = 10-3/103 = ppm と考えます。
便宜上 単位と呼んでいますが、正しくは比率を表す補助単位で、正式な国際単位であるm(メートル)やg(グラム)とは少し異なります。

 亜硝酸は、不安定な弱酸で水中では亜硝酸イオンとして存在しています。亜硝酸イオンはアンモニウムイオンと硝酸イオンとの中間生成物で不安定物質であるため、基本的には水中に蓄積することはありません。また、動物に対して毒性が強いです。

 亜硝酸を構成する窒素を特に亜硝酸態窒素といい、アンモニウム態窒素と硝酸態窒素を含め水中に存在する3種の無機態窒素の1つです。ただし、有機態窒素の多くは水中生物の分解により無機態窒素に変化します。

概説  亜硝酸態窒素は主にアンモニウム態窒素が硝化細菌に酸化されることによって生じますが、きわめて不安定な物質です。微生物によって、好気的環境では硝酸態に、嫌気的環境ではアンモニア態に、それぞれ速やかに変化します。なので検水に亜硝酸イオンの反応が出ている場合、細菌による汚染が発生している可能性があります。例えば、大腸菌群や緑膿菌類等の還元細菌が硝酸性窒素を栄養源として繁殖し、その代謝によって亜硝酸性窒素が大量に還元されている恐れがあるからです。

 亜硝酸は不安定ですが大変強い毒性を持ちます。血液中で酸素運搬をつかさどるヘモグロビンと反応し、酸素運搬機能を持たない別の血色素であるメトヘモグロビンに作り変えてしまうのです。よって魚類など水中生活者の呼吸を阻害するため、亜硝酸態の濃度が高い水域で生物は生存できません。もちろん人体にも有害です。
 また、不安定な亜硝酸は速やかに酸化され硝酸になりますが、当然 水中の酸素が消費されますので、付近の溶存酸素が下がってしまいます。これは前述の呼吸阻害とあわせて、水生生物の酸欠と窒息による大量死の原因となりえます。

亜硝酸態窒素濃度水質の例
0.0018〜0.03ppm河川の上流の水
0.03〜0.09ppm河川の下流の水
0.006〜0.03ppm少し汚染がある
0.03〜0.06ppm汚染がある
0.06〜0.15ppm汚染が多い
 
 
測定法  亜硝酸の測定は、ジアゾカップリング反応を用いて、生じたアゾ化合物の量を測定することで行います。一般にアゾ化合物は目立つ色をしており、反応の程度が目視で判断できるためです。
 パックテスト(共立理化学研究所の商標、以下は略します)は狭い濃度範囲でも発色の差が大きくなるように調節してあり、非常に便利です。ただし、数値を測定できる範囲も狭くなっておりますので、高い亜硝酸濃度が予想される場合などは高濃度用に調整された別のパックテストを用いる必要があります。

 通常、河川水の亜硝酸濃度は極めて低くなります。水の流れがあるため細菌類が長期間とどまれず、溶存酸素も十分にあるのが明らかだからです。ですので、亜硝酸濃度の測定範囲が0〜0.1 mg/lである ナフチルエチレンジアミン(ナフチル-エチレン-ジ-アミン)法を用います。
 高濃度のが予想される試料を測定する際はグリース変法という方法を用いますが、最終産物のアゾ化合物の色の濃さを使って測定するのは変わりません。グリース変法では最初に亜硝酸をスルファニル酸と反応させてジアゾニウム塩を作るため、最終産物もやや異なります。

 まず、亜硝酸イオンを酸性条件下でスルファニルアミド(スルホン-アニル-アミド)と反応させジ-アゾニウム塩(分子中に窒素が2つ並ぶ構造を持つ物質のこと)を作ります。この反応をジ-アゾ化と呼び、高校化学に頻出のアニリンを用いたジアゾ化は低温でしかおこりませんが、これを用いたジアゾ化は室温でおこります。
 そこにナフチルエチレンジアミンを加えることによってカップリング反応がおこり、アゾ化合物が生成します。この2工程をわかりやすくするとしたのようになります。

 亜硝酸 + スルファニルアミド +塩化水素 → あるジアゾニウム塩 +水 (ジアゾ化)
 ナフチルエチレンジアミン + このジアゾニウム塩 → ピンクのアゾ化合物

 アゾ化合物はその多くが染料として使われる鮮やかな色彩を持つ化合物で、この場合ピンク色のアゾ色素が発生するため、この発色の強さを目で見て、亜硝酸イオンの濃度を測ることができます。

 ちなみにスルファニルアミドはサルファ剤と呼ばれる抗菌剤の1つです。病原体といわれる微生物の代謝にたいして競争的阻害(テレビをつけようとプラグをコンセントに刺そうとしたら、すでに別のプラグが刺さっていて電源が着けられない!みたいなかんじ)を起こし抗菌作用を発揮します。


PO43- リン酸イオン

化学式 PO43-
標準和名 リン酸イオン、リン酸塩
標準英名 Phosphate Ion, Phosphate
定義 mg PO43-/L(=ppm)(リン酸態リン) mg PO43- −P/L(=ppm)(D) (Dとは低濃度調査用であるの意)

 ※ppm(parts per million)はあまり見慣れない単位ですので補足します。parts per millionの言葉の意味通り、100万分の一を表します。 100分の一を表す%(パーセント)の親戚だと思ってください。
求め方は、河川水は1ml=1mgと近似できるので、1L=1kgと考えて、mg/L = mg/kg = 10-3/103 = ppm と考えます。
便宜上 単位と呼んでいますが、正しくは比率を表す補助単位で、正式な国際単位であるm(メートル)やg(グラム)とは少し異なります。

 リン酸は主にオルトリン酸 H3PO4を指します。しかし水中に存在する総リン中、無機態リンはオルトリン酸(正リン酸)または、まれに重合リン酸(メタリン酸 HPO3、ピロリン酸H427、トリポリリン酸H5310など)として存在し、有機態リンもまた様々な形態で存在しています。なのでリン酸とひとまとめにするには注意が必要です、

概説  リン酸塩は植物の生育に必要な栄養塩の1つで、水中では主に藻類に吸収利用されます。なので過剰なリン酸イオンの増加は藻類の過剰繁殖を招き、それに伴い動物プランクトンも増加、いわゆる赤潮や青潮など様々な問題を引き起こします。これら一連の現象は富栄養化と呼ばれ、深刻な水質悪化の引き金となりえます。したがってリン酸塩を含む栄養塩類の濃度は水質の評価に広く用いられています。

※富栄養化そのものは湿地性遷移の最中に起こる自然現象の1つです。しかし人為的な栄養塩の流入が原因で、しかも急速に引き起こされていることが問題とされています。

 水中のリン酸イオンの増加の主な原因は人為的なものです。元々 自然界ではリン酸の供給源が動植物の亡骸や糞尿ぐらいしかなく、当然水中にもほとんど存在しないのです。ですのでリン酸塩を処理する能力がそもそもあまりありません。なのでほんのわずかなリン酸の流出が環境に重い負荷を与えることになります。

 まず、農業で使われる肥料の流入が考えられます。肥料の中にはリン酸塩が多量に含まれまれますので、肥料そのものでなくても 使われた土壌が流れ込んだ場合でも深刻な汚染となります。
 畜産も大きな汚染源です。大型の家畜が排出する屎尿に含まれるリン酸塩は無視できるものではなく、それらを洗い流した畜産排水の流入は重大な栄養塩過多を引き起こします。
 家庭や工場からでる排水にもリン酸塩は含まれています。その主な原因は合成洗剤です。界面活性剤の中には多くのリン酸塩が含まれていました。現在は環境に配慮されて無リン化や減リンが進められていますが、これらを含んだ排水はまだまだ大きな汚染源です。
 やっかいなことに、リン酸イオンは通常の下水処理で完全に除去することはできません。ですので人間の糞尿もまたリン酸塩の供給源になています。最近では、凝集沈殿法、生物処理などの高度処理により除去率は向上しましたが、それでもゼロにはできませんし、深刻な環境負荷を与え続けています。

リン酸態リン水質例
0.05ppm以下雨水
0.05ppm以上河川の上流の川
0.1〜1.0ppm河川の下流の水

 最初に軽くふれましたが、富栄養化が引き起こす異常について詳しく説明します。

 リンは植物の三大栄養素の一つです。つまり水中のリンが増えると、藻類や植物性プランクトンが大量に増殖します。このときプランクトンが増え過ぎて水面からでもその体色である赤色が分かるようになってしまったのが赤潮、緑色の藻が水面を覆うほどになったのがアオコと呼ばれる現象です。

 ここまで極端にプランクトンが増えてしまうと、様々な問題が引き起こされます。まず、プランクトンそのものが持つ毒素による汚染です。一つ一つは僅かでも、大量に増殖することで 魚などのエラを詰まらせるなど 無視しえないダメージを水中生物に与えます。
 プランクトンも呼吸をしますので、動物プランクトンが多かった場合に水中の酸素を使いきってしまったことによる貧酸素状態が引き起こされます。前項でも解説した貧酸素水塊が生まれる原因の一つでもあります。
 逆に植物プランクトンが多すぎた場合、光合成で生まれた酸素を使いきれずに 酸素の過飽和を招く恐れがあります。溶存酸素の項目で紹介したガス病は魚類にとって深刻なダメージを与えます。
 酸素はありすぎても困りますが少なすぎるのはもっと問題です。大発生したプランクトンの死骸の分解による酸素の大量消費は水生生物にとって最悪のダメージをもたらします。赤潮や青潮などで一面に浮かんだ魚の死体の映像を一度はご覧になったことがあるかと思いますが、とどめとなるのはたいてい酸素を奪われたことによる窒息です。

測定法  リン酸塩の検出には酵素法とモリブテン青比色法が用いられます。パックテスト(共立理化学研究所の商標、以下は略します)では狭い濃度範囲でも発色の差が大きくなるようにモリブテン青比色法が調節してあり、非常に便利です。ただし数値を測定できる範囲も限定されてしまいます。パックテストの場合は河川調査などに用いる低濃度用、浄化槽などの検査に用いる高濃度用、そして比較的広い範囲を測れるがpHの制限が厳しい通常用、の3種類が用意されています。

 モリブテン青比色法は、文字通りモリブデンの呈色による発色によってリン酸塩を測る手法です。まず試液中の全リンを酸化分解でリン酸態リンにし、酸性溶液中でリン酸イオンをモリブデン酸と反応させることで、黄色のモリブデン酸錯体を生成させます。これは、リン酸イオンの周りに12個ものモリブデン酸が配位結合した状態です。

 そして形成された錯体をアスコルビン酸(ビタミンC)で還元すると濃い青色を発します。配位したモリブデン酸中のモリブデンの一部が還元されることで、電子遷移が生じて黄色から青色に変わるのです。この呈色を観測することでリン酸塩の量が推定できます。

※モリブデン(Mo)は原子番号42でクロムと同じ6族、そして第4周期の遷移金属元素です。高校化学ではあまり取り上げられませんが、銅や鉄などと同じ錯イオンという状態になることができます。人体には必須のミネラルの1つでも有り、聞きなれないかもしれませんが意外と存在感のある金属です。

 パックテストを用いる時の注意として、低濃度用のものを除き、溶液のpHが低くなければ十分な発色が起きない点があります。調査する試液にあらかじめ硫酸を添加して硫酸酸性下に調整してからパックに吸い込まなければなりませんので、作業には十分な注意を払う必要があります。試液を室内まで持ち帰り、保護者や教師など監督者の立会いの下でパックテストを行うようにする などの十分な配慮を考えるべきでしょう。劇薬ですので廃棄にも手順が必要ですし、導入には準備と計画が必要です。

 詳細は「共立理化学研究所様のWEBサイト」でご確認ください。

 酵素法はどのような酵素と有機物を組み合わせるかで手法がさらに分かれます。
 リン酸を用いた反応の最終産物は結果に影響しませんので、生化学的な話は割愛させていただきます。結局のところ、反応の途中に、脱水素酵素によって脱離した水素に由来する反応生成物の量を測定し、リン酸イオンの量を推定することがこの方法の骨子です。
 PNP−XOD−POD法などがあります。

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