クマムシを飼う

                           M3 田中 彬寛

・目的
 クマムシの生活環を安定させ、その生活史を観察すること。

・クマムシとは
クマムシは一般に、何をしても死なない等と謳われ、テレビなどで、クマムシという名を、聞いた事がある人も多いと思います。 分類体系から言うと
、 緩歩動物門
 異クマムシ綱
 中クマムシ綱
 真クマムシ綱
となり、この緩歩動物門は、クマムシだけで構成されており、ここからクマムシは、独特な生物だと、伺いしれます。
異クマムシ綱は、側毛と呼ばれるヒゲを持ち、背に装甲の様なモノをつけています。(右図)

(これは、摂津本山‐住吉間のJR沿線で 採取したコケから見つけたモノ。あまり 見つからず、二度程しか発見出来ていない)
真クマムシ綱は側毛を持たず、また多くが体表がなめらかで、背に装甲の様なものは有りません。(右図)

(これは、家近くのコケで採取したコケから見つけたオニクマムシ。簡単に見つけることが出来る。ひっくりかえっているのは御愛嬌)

最後に、中クマムシ綱ですが、これは、今までで発見されたのは、長崎の温泉中で発見されたオンセンクマムシという一種のみであり、また、サンプルも存在しません。 異クマムシと真クマムシの特徴を兼ね備えている、珍しい種です。

ところで、前文化祭で多く聞かれたので、此処に記しますが、クマムシは寄生虫という訳ではありません。ましてや、人に寄生して、血液を吸い取るなんてことはありませんので、ご安心を。


・tun状態
 では、有名なクマムシの死なないという話をしていきたいと思います。

と、始めましたが、クマムシが死なないという事はありません。もちろん、潰したら死にますし、燃やしたら死にます。
クマムシは、強いストレスに耐えられる、耐性を持っているだけです。
それも、普通の状態では、駄目です。普通の状態でクマムシを電子レンジにかけると、簡単に死にます。
クマムシはtun状態である時に、多くの耐性を持ちます。
tun状態とは、クマムシをゆっくり乾燥させた時に、クマムシが樽のようになる状態の事です。
この状態になると、ほぼ絶対零度、極端な温度変化(−190℃〜151℃)、真空、7500気圧
570000レントゲン、疎水性の高いアルコールなどに耐えられます。
しかし、この多くは、クマムシがストレスに耐えた後tun状態から普通の状態に戻った事だけを指しており、ここから再び生殖活動が出来るかは考えて無い事には注意が必要です。

・クリプトビオシス
クリプトビオシスとは、生きている状態でありながらも、殆ど代謝の無い状態を指し、クリプトビオシスするものは、クマムシはもちろん、ネムリユスリカ、シーモンキー等です。
クリプトビオシスする事により、つまりクマムシではtun状態になる事により、過酷な状況でも、一年程度なら耐え忍ぶことが出来ます。
ところで、クリプトビオシスの構造はというと、 まず有名なのは、トレハロースを使う方法で、これは水置換、ガラス化の二つの構造により影響を及ぼします。
・水置換とは、トレハロースの水酸基(OH)が水と良く似ており、これにより生体内の水とトレハロースを置き換え、水を媒介として起きる化学反応を起こさない事です。
・ガラス化とは、高濃度のトレハロースがガラス化(結晶、溶解せずに固体状になる事)し、生体内の反応を低下するのと同時に、生体内を支えます。

次に、LEAタンパク質が挙げられます。
これは、普段はランダムな構造をしていますが、乾燥ストレスが加わると、α−ヘリックス構造(螺旋構造)をとります。これにより、タンパク質の塩折(高濃度塩によるタンパク質の凝集変性)を防ぎます。
また特にLEAタンパク質のGroup3はα−ヘリックスの表面が結合し立体構造をとりガラス化の補強になります。

これらの仕組みは、ネムリユスリカに由来するものであり、クマムシもおよそ、このような仕組みだろうと思われています。
しかし、ワムシや酵母もクリプトビオシスをしますが、これらにはトレハロースが必要でなく、別の方法で行います。


・シスト形成
一部のクマムシは水質の悪化などにより、新しいクチクラ層を形成して、自らを覆いtun状態程ではないですが代謝を無くします。


個人実験


では、やっと個人実験の内容を書きます。
実験で飼育するのは、オニクマムシというクマムシの中でも唯一の肉食性のクマムシで(図は真クマムシ綱)、小さい線虫やワムシなどが捕食対象ですが、今回は「クマムシ?!」の著者、鈴木忠氏に倣いワムシをエサとして扱おうと思います。 まず、クマムシの捕獲ですが、これは、道端のコケを採取し簡易ベールマン装置で、コケの中の小さな生物を分離します。そしてそれを実体顕微鏡で観察し、再びクマムシだけを分離します。 次に、シャーレに寒天を敷きそこに水を張り、これをオニクマムシの飼育場所とします。

最後に、エサですが、これが最も大変であり、最初、「ひょうご豊かな海づくり協会」の方から生きワムシ(上左図)と、そのワムシのエサの植物プランクトンのナンノクロロプシス(上右図)をいただいたのですが、このような培養経験が今までになかった事や、いただいた直後に学校での旅行があった事などにより、全滅してしまいました。 しかし、その後の考察の結果、淡水魚屋に売っている冷凍ワムシで代用出来ないかと、試みていますが、まだ明らかな結果は出ていません。 そして、2010年1月現在、実験の途中ですが、2010年の文化祭には、その後の結果などを伝えたいと思います。






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